They were made each other?
「あぁ!やっぱり二人には何かの縁があるんだわ!見えない糸かしら?
情熱的な血の色をした糸っぽいものが二人の小指と小指を繋いでいるような、いないような!」
がたんと音をたてて、オープンテラスの白いイスの上に勢いよく立ち上がったツララはあさってのほうを向きながら
黒い瞳と周りの空気をキラキラと輝かせながら声を上げた。
自分の目の前で一人宝塚の世界へ旅立ってしまった親友の口から、浪々と流れ出る舞台台詞のような言葉を聞き流しながら
ロキはランチのデザートである葛切りをすする。うん、うまい。
ずいぶんと舞い上がっているなと思い見てみれば、ツララの両足はイスから3センチほど浮いていた。
あぁ、文字通り舞い「上がって」いる。
何も無い空間に大声で語りかけるツララを眺めながら、何故こんなことになってしまったのかを考えた。
考えたが、いまいち思い出せなかった。そのうちに、ツララの独り言の内容はエスカレートしていく。
「ってゆうか見えない糸なのに「赤い」っておかしくない?
まさか、血管!?やだ、じゃあ赤い糸は二人を繋ぐ血流バイパス!?それってスプラッタ!だけどロマンチック!!」
「今日もぶっ飛んでるねぇ、ツララちゃん」
「そうね。良い子なんだけどたまにああなのよねえ」
「だよねぇ、明るくて友達も多いし、仕事熱心だし、感情豊かでかわいいし、ちょっとおせっかいだけど友達思いだし」
「ダーリンて、女の子の良い所を見つけるのが上手ね」
「え?ナニナニ?ニャミちゃんたらヤキモチ!?嬉しいなぁ」
「ダーリン、私の手元に注文したばかりのホットレモネードがあること忘れないでね」
「・・・・・・ニャミちゃん、そんなの頭からかけられたら僕、火傷しちゃうんだけど・・・」
ロキとツララの不思議空間を一組のカップルが遠巻きに眺めていた。ウサ耳帽子にコメントし難い、あえて言うならキワドイ私服の男と、こちらは帽子でネコ耳を隠したラフだが見苦しくない格好をした女はロキとツララの顔見知りのようだったが、あえて近づこうとはしなかった。たとえ天下のバカップルであろうと、あの二人に物申すようなツワモノはこの場にいなかったのだ。
「ちなみにね、ニャミちゃん」
「なぁに、ダーリン」
「赤い糸が見えないのに「赤」ってわかるのは中国の漢詩だか故事だかに元ネタがあるらしいよ」
「へぇ、ダーリンたら物知りね」
「すごい?見直した?僕のこともっと好きになった?」
「ダーリン、今私がパンケーキを切るナイフを持ってることも忘れないでね」
「…………ごめんなさい」
「でもねでもね、本気の話、なんだかんだ言ってロキちゃんとカジカ君てやっぱり縁があると思うのよ」
「そうか?」
「そうよぅ。だって、カジカ君ていっつもどこかをフラフラしてて居場所がつかめないし
ついさっきいたと思ったら次の瞬間には思い掛けない所に行っちゃっててたりするじゃない?」
「方向音痴なだけだろう?」
「ただの方向音痴で砂漠とジャングルと永久凍土と日本と魔女の森を徒歩で行き来するなんてムリよ」
「どうだか」
「とにかく、あの歩くバミューダトライアングルのカジカ君と頻繁にコンタクト取れるなんてロキちゃんだけよ。
不思議な引力でもあるのかしら?」
「それだと、まるで私がカジカを引き寄せているように聞こえるのだが」
「いいじゃない。男なんてみんな女の子に惹きつけられる蛾みたいなものよ」
蛾という言葉はロキの中でカジカと符合しなかった。
あの、毒々しい紋様といかにも重たそうに羽を動かす生き物は、ロキの知る色素の薄い青年とはまったくの対極にあるように思えるのだ。
あの朧げな生き物は、蛾というよりはむしろ…。
「ロキちゃんはカジカ君のことキライ?」
いつのまにか、ツララがロキのことを見つめていた。さっきまでくるくると表情を変えながら見開かれたり、細められていた目が今は真っ直ぐにロキを捉えている。
ロキはツララのこの表情が好きだった。無論、裏表のない笑顔や、顔を赤らめて憤る顔も好きなのだが、この真剣な瞳の中にいるのが自分だということがロキには嬉しいのである。
ロキには友人が少ない。否、ほとんどいないといってもいいだろう。というのも本人がそれを欲しがらないところにも大きな原因があるだろうし、ロキの住み家が人里からかなり離れていることも原因だろう。そしてその住み家も主の心の内を表現しているのか、何とも入りづらい雰囲気を醸し出している。
しかし、ツララはそんなロキのほとんど唯一の友人だった。もともとのお節介ともいえる性格のせいなのか、無言の拒絶をものともせずロキの中を侵略していき、ついにロキも拒否することを諦めた。ここで、ロキは生涯最高の友を手に入れるのだがその時はそんなことになるとは微塵も想像していなかった。
そして今、ロキの少ない友人知人達はツララを経由して知り合ったもの達ばかりである。
が、カジカは違った。カジカはロキにとってほぼ初めての、ツララを通さずに知り合った人物である。
「別に、キライではないが、好きでもない。少々迷惑だと感じることもあるがな」
「なら、好きになったほうがいいわ」
ツララは嬉しそうに笑った。
「なぜ?」
「うふふ、どうしても」
「?」
「自主的に会いたいって思わないのに、ついつい一緒にいちゃうんだから、やっぱりなにかの縁があるのよ」
そう言うと、ロキに見せ付けるように小指を一本だけ立てる。
その意味する所を理解したロキは口をへの字に曲げたが、ツララはやはりにこにこと笑うだけだった。
「どんな色の縁かはわからないけどね」
私の中でツララたんはこんなキャラ。無駄にテンション高い。
タイマーは尻に敷かれてます。
2008 11 16