赤頭巾の御伽噺風に
あるところに一人のとてもとても、べらぼうに可愛らしい女の子がいました。彼女はこれといって
赤い頭巾も黒い頭巾もかぶっていなかったので普通によーちゃんとよばれていました。
ある日よーちゃんは山奥で療養生活をしているしずるさんというお友達のところへお見舞いに行くことにしました。
しずるさんのいる山奥の病院は魔法使いがいるとかロボットがでるとかバイクに乗った魔女がでるとか、怖い噂がいっぱいだったのでよーちゃんは寄り道せずにしずるさんの病室へ向かいました。
しかし、しずるさんの病室まであと少しというところでよーちゃんは呼びとめられてしまいました。
「こんにちは、よーちゃん」
それは怖いオオカミ…ではなく、しずるさんの主治医の先生でした。
「お姫様のところへいくのかな。よかったらこれをお姫様に届けてもらえるかな」
そういって先生はよーちゃんに何かの液体の入ったビンと紙袋を、バスケットに入れてわたしました。
そのバスケットの中身がにがいお薬なのだろうなと思うと、よーちゃんの心がきゅうっとしめつけられました。
コンコンとしずるさんの病室のドアをノックすると、きっかり3秒後に返事がありました。
しかし、中へ入ってみるとよーちゃんはなんだか、どこかがいつもと違う気がしました。けれどどこが違うのかはハッキリとはわかりません。そして、どうしてでしょうか、いつもは思っていても口には出さなかった言葉がなぜか今日はポロポロとこぼれていきます。
「ねえしずるさん、どうしてしずるさんの髪はこんなにサラサラでキレイなのかしら」
「そんなことを言ったらよーちゃん、どうしてあなたの髪はこんなにふわふわで可愛らしいのかしら」
「ねえ、どうしてしずるさんからは消毒液とは違ういい匂いがするのかしら」
「それより、よーちゃんからはいつもお日様の匂いがするわ」
質問に答えてくれないしずるさんによーちゃんはちょっぴり怒りました。
「もう、しずるさんったら質問に答えてよ」
「だって、よーちゃんとお喋りするのって楽しいんだもの」
そういってくすくす笑うしずるさんを見て、よーちゃんは病室に入ったときに感じた違和感の正体がわかったのです。
「それじゃあこれが最後の質問よ。どうして、今日のしずるさんのベッドはいつもより大きいのかしら」
「…うふふ、それはね…」
しずるさんは口元に指をあてて笑ったかと思うと、よーちゃんの手を取り自分のベッドに引よせきました。
いきなりのことにびっくりしたよーちゃんはバランスを崩してしまい、しずるさんをクッションにすることは避けたものの、しずるさんのベッドの上に倒れこんでしまいました。
目をまんまるにして固まってしまったよーちゃんを見て、やっぱり笑いながらしずるさんが言います。
「こうやって、よーちゃんといっしょにお昼寝できるようによ」
耳元に息を吹きかけられるみたいにささやかれたよーちゃんは顔を真っ赤にしてあわてましたが、しずるさんがよーちゃんの手を離さないのであきらめて靴を脱いでしずるさんのとなりに横になりました。
ふたりで向かい合うようにしていると、自分でもわかるくらいに顔が赤くなっているよーちゃんが、それをごまかすようにしずるさんに話しかけます。
「…あかずきんってこんな話だったかしら」
「そうよ、あかずきんのおばあさんに化けたオオカミはあかずきんを騙して自分のベッドでいっしょに寝させるのよ」
「あ、聞いたことあるわ。確かグリム童話の初版とかはそうゆう話なのよね。でも、しずるさんはおばあさんのふりをしたオオカミじゃないじゃない」
「ふふ、よーちゃんたら、本当にそうだと思ってるの?あなたはとっても可愛いんだからもっと気を付けなくちゃだめよ」
「そういえば、その話ではオオカミがあかずきんにワインや肉を食べさせるのよね」
「そうなの?でもどうしてかしら。太らせてから食べようとしたとか?」
「さあね、どうだったかしら。でも、だったら私も可愛いあかずきんちゃんになにかあげなくちゃね」
そう言うしずるさんの手には、さっきよーちゃんがしずるさんの主治医の先生からあずかったはずの薬の紙袋がありました。
「あ、しずるさん。それ…」
「先生もいじわるよね。もっとわかりやすくしてくれればいいのに」
「なんのこと?」
困った顔をするよーちゃんにしずるさんは紙袋の中身を見せました。それはよーちゃんの想像したにがいお薬ではなく色とりどりのラムネでした。
「それ、お菓子だったの!」
よーちゃんはびっくりすると同時に安心しました。そしてそのラムネを一粒手にとりました。ピンク色のそれはよーちゃんの手の上をコロコロところがります。
「ね、よーちゃん、私それを食べてもいいかしら」
「もちろんよ」
はい、と袋ごとわたそうとしたよーちゃんでしたがしずるさんは袋を受け取らず、よーちゃんの手の上の一粒を口に入れました。当然、よーちゃんの手に口をつけてです。
予想しなかったしずるさんの行動によーちゃんの心臓はばくばくと暴れてしまい、恥ずかしくなったよーちゃんはそのまま頭から布団をかぶってしまいました。
そんなよーちゃんを見てしずるさんはにこにこしていましたが、自分も布団の中にもぐってよーちゃんに言いました。
「だから言ったでしょ。私はオオカミで可愛いあなたを食べちゃうかもしれないんだから」
初、しずるさんとよーちゃんです。たのしかった!
2007 1 18