五年で正月ネタ  なんとなく鉢雷とタカくくっぽいかも





暦が新年となって二日目。食堂で餅を頬張る四人はそれぞれの初夢の話で盛り上がっていた。
「俺は山の中で孫兵と一緒に何かを探してたんだよ。
 しかもその山ってのが凄い薄暗くてぞわっとするような雰囲気でさ」
「おい、竹谷。餅飲み込んでから話せよ」
「で、焦りながら周囲を見回す俺に、隣にいた孫兵がある一点を指差して示したんだよ」
「…それで?」
焦らすように間を置く竹谷に聞き入っていた不破が続きを促す。
「孫兵が指差した先にはさ、あったんだよ。…………人間の死体が」
「うわっ…」
「お前、新年からそんな夢かよ」
竹谷の初夢の内容に久々知と鉢屋が眉をひそめる。
オチを話してスッキリした竹谷はあっけらかんとした様子で更に続ける。
「実はそこは富士の樹海でさ、俺と孫兵は何かの生物を捕まえに行ってたみたいなんだよな」
「…………やったじゃん竹谷。富士の初夢だよ。縁起いいなあ」
久々知が若干哀れみの混ざった目で竹谷を見る。
「いやぁ、あっはっはー。みたいな顔してんなよ。褒めてないぞ。」
「ど、どんな形であれ富士山の初夢なんて縁起いいよ。
 死体だって、夢の中での死は現実では逆に良い意味になるっていうし、ね!」
冷めた反応の鉢屋とは反対に不破は必死で竹谷の初夢にフォローを入れる。
「じゃあ久々知はどんな初夢だったんだ?まぁどうせお前は新年から豆腐絡みの夢なんだろうな」
「失礼な。今年は初夢に豆腐は出てこなかったぞ」
にがりを餅にかけてもぐもぐと食べる久々知が口を尖らせ反論する。
「今年『は』って」
「今年はなぁ、竹谷ほどじゃあないが縁起物が出たぞ」
少し得意気に久々知は言う。
「竹谷ほどじゃあないけど縁起物って言うと…鷹かナスビかな」
「キセルか扇かもしれないぞ」
「っていうか俺の富士樹海は縁起物扱いでいいのか」
不貞腐れた竹谷は餅に大根おろしを絡ませる作業に没頭することにした。
「富士とは言わないが…鷹が出た」
おぉ、と不破と鉢屋が声を上げる。
「…………斉藤だけど」
あぁ、と不破と鉢屋が納得したように声をだす。
「鷹は鷹でも斉藤タカ丸ってことか」
「兵助はタカ丸さん好きだねえ。言ってあげれば喜ぶよ」
苦笑いする不破を久々知はキッと睨むと反論する。
「別に好きとかじゃない。ただ去年の年末に斉藤に髪を切ってもらって
 そのときに痛んでるとか枝毛が多いとか言われたのが記憶に残ってただけだ」
「ふぅん」
「おい、なんだ三郎その返事は!」
「別に。ただ、いきなり早口で捲し立てちゃって解りやすいなぁと思って」
「だから、本当にそれだけだって!」
「はいはい、二人ともそれくらいにして。次、三郎の初夢は何だった?」
言い合う久々知と鉢屋を仲裁しつつ話題を次にシフトさせる。
「私?私の初夢は二人に比べれば大したことなかったぞ」
雷蔵出てこなかったし。と続ける鉢屋をうんざりした表情で久々知と竹谷は見るが
当の不破は慣れたもので顔色一つ変えずはいはいと聞き流している。
「夢の中で私は舞台俳優でさ、次の舞台での役作りに難航しているんだ」
「三郎らしいっちゃあ三郎らしい夢だな」
「それで私は私に言い聞かせるんだよ『三郎、ガラスの仮面を被るんだ!』ってな」
「お前…それは…」
「そこに、いつも私を応援してくれる顔も名前も知らない人あの人からメッセージが届くんだ」
「おぉ、真澄様だ」
「竹谷ネタバレすんなよ」
絶妙な語り口と身振り手振りで鉢屋の話は三人を引き込んでいく。
「暖かい言葉といつもの贈り物」
息を飲み聞き入る三人。
「嗚呼、紫のナスの人!」
盛大にずっこけた。
「ナスは普通紫だ!」
「薔薇じゃないんだ!」
「お前も縁起物出てんじゃん!」
しかしそんな三人の突っ込みをよそに鉢屋は淡々と話を続ける。
「そこで目が覚めたんだが、私としては紫のナスの人は雷蔵じゃないかと思うんだよ」
「そんなこと大真面目な顔で言われても…。僕は三郎の夢の中まで責任持てないよ」
「雷蔵はどうだったんだよ」
長くなりそうな鉢屋と不破の会話を遮り久々知が不破に尋ねる。
「僕?僕はね」
うんうんと相槌を打ちながら竹谷は不破の悪い癖が出ないことを祈る。
この癖が出ると10分で終わる話が30分も40分も掛かるのだ。
「皆で鍋をやる夢でね、僕が出汁とか用意するから皆は食材を持って来るっていうんだ」
「ほうほう。それで兵助が豆腐を」
「まだ雷蔵は何も言ってないぞ」
「いや、兵助は豆腐だったよ」
「あ、俺は雷蔵の夢の中でもそうなんだ…」
「でもただの豆腐じゃなくて富士山の形した豆腐だったんだよ」
「お、縁起物」
「富士山型の豆腐ってどんなのだよ」
「白かったよ。あと末広がりの安定感はハンパなかったね」
いや、色とかじゃなくて。という言葉を飲み込み久々知は黙る。ここで話の腰を折ると面倒だ。
「竹谷は野生の鳥を狩ったっていうからそれを。大きさからして鷹だったなあ」
「鍋に猛禽類か」
「せめて雉とかにして欲しいよな」
目線を斜め上にして己の記憶をたぐる不破に竹谷と久々知が小声で突っ込みを入れる。
鉢屋は鉢屋で不破の話に、やったな雷蔵縁。起物が二つも揃ったぞ。
と、にこにこと機嫌良く相槌を打ち隙あらばその餅を頬張って膨らむ頬に触れようと手を伸ばしている。
「最後に三郎が来てさ、両手いっぱいにナスを抱えているんだよ」
からからと嬉しそうに笑う不破を見ながら三人は鍋に入れられた富士山型の豆腐と
丸々一羽の鷹、そして大量のナスを想像する。
初夢に出てきて嬉しい縁起物ばかりなのにまったくありがたみが感じられなかった。
「みんなで美味しく食べたよ。やっぱり鍋は大勢でやるのが一番だね」
言ってやりたいことは多々あったが、結局口から出る言葉は皆同じだった。
じゃあ、それを正夢にするために今日は雷蔵の部屋に材料を持ち込んで鍋にしようか。






あけましておめでとうございます。
話の一部の元ネタはサディスティック・19から。
流石に「赤い服を着た女が踊りながら〜」「それは○富士だ!」は古いだろうと思いやめました。
2009 1 4