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「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」
無感動且つ無表情に千条は言った。
「…ああ、そういえばハロウィンが近かったな。」
伊佐はあまりハロウィンが好きではない。日本には盆があるのになぜ外国の盆(に相当するであろう祭り)
までやってやらねばならないのか、とかそんな理由だ。
「伊佐に聞きたいんだが、イタズラとは具体的にどんなことだい」
「具体的って、イタズラはイタズラだろう」
「だから例えばどんなことだい」
「そうだなぁ…」
伊佐は一瞬考える。伊佐の想像するハロウィンのイタズラは、子どものする他愛の無いものだった。
なのだからそれは部屋をちょっとばかり汚したり、昆虫の形をした玩具やバクチクで驚かせたり、といった
所だろうか。改めて具体的に、といわれると困るものだ。
…もしや千条は具体例を出させて実践するつもりではないだろうか。
伊佐の頭に可能性は低いが無いとは言い切れない嫌な考えが浮かぶ。
誤魔化してしまおうか。
「あー、いきなり具体的にと言われても困るな。俺はハロウィンには詳しくない」
「そうかい。ならこの件は保留にしておくよ」
そう言うと千条は何事もなかったかのように仕事の話題に移った。
その話題はそこで終わりのはずだった。少なくとも伊佐の中では終わったことになっていた。
「伊佐、トリックオアトリート」
やけに発音が良かった。
「なんだまだ言ってたのか。菓子ならないぞ」
「なら、イタズラのほうだね」
「イタズラってお前…」
一瞬のことだった。何か言わんとした伊佐の口に千条が噛み付くように口付けた。
「…」
「…」
「…千条今のは」
「イタズラだよ。具体的に、こういうことをするらしい」
しない。イタズラといってもそういうことはしない。
何か反論しようと伊佐は思ったが自分の行動に何の疑問も持たず、いつもの瞳孔開きめの無表情を崩さない
千条を見て、何も言えなくなった。
彼の表情には自分がおかしいことをしたという思いはおろか、照れも何も無かったものだから伊佐としても反応し難かった。
し難かったのでああ、そうか、と適当に相槌を打つことしか伊佐にはできなかった。
とりあえず、怒りは千条に余計なことを吹き込んだであろう釘斗に向けることにした。
伊佐は大きく溜め息をつく。
「どうしたんだい、顔が赤いよ」
「なんでもない。気にするな」
いくらなんでも千条はもう少し賢い、というか凄い学習能力があるだろうとは思ってます。 2007 10 31