今日はどうもおかしい。
いつも恐縮するほど親切な病院の人たちが、いつも以上に親切だ。親切、というか何故か皆よーちゃんにお菓子をくれるのだ。守衛さんも、いつもの受付の人も、しずるさんの主治医の先生も。。なにかあったのかとよーちゃんは思うが、心当たりはない。
(今日は、祝日でも特にイベントのある日でもないし…何かのお祝い事でもあったのかしら)

「あぁ、もうすぐハロウィンだからよ」
「ハロウィン?」
なるほどそういうことか。それなら合点がいく。しかし。
「よーちゃんはハロウィンってやったことないかしら」
「ないわ。それに確かハロウィンってお化けに仮装した子どもたちが『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!』
ってやるやつよね?」
「そうよ」
「私、今日は普段着で、仮装なんかしてるつもりはないんだけど」
もしかして、自分が普段着と思っている服装は他の人から見たら仮装に見えてしまうほど奇抜なものだったのかと不安になるよーちゃんに、しずるさんはさらっと言う。
「きっと、よーちゃんがこの世のものとは思えないほど可愛らしいから、みんな天使と間違えたんだわ」
「…………え」
からかわれているのか、それとも本気なのか、にこにこといつも通りの笑顔のしずるさんによーちゃんはなにも言えなくなってしまう。
「……じゃあ、きっと私の目の前にいるのは女神様に違いないわね。こんなにキレイで賢いんですもの。女神様だとしか思えないわ」
精一杯の反撃のつもりだったが、あまり効果はなかったようだ。
「あら、やっぱり天使さんて純粋なのね。私はきっと女神様なんて大それたものじゃなくて、地上にやって来た無垢な天使を捕まえようとする悪い魔女だと思うのだけど」
少しの間をおいて、二人はクスクスと笑いあった。
今日はきっと、こんな感じで語り合いながら一日を終えるのだろう。
貰ったお菓子を一つ一つ手に取りながら、他愛の無い話をする。少女たちにとって、今日は別段特別な日というわけでもなかった。





2007 10 31